徒然なるままに

日常のあれこれなど

市川崑監督×石坂浩二の金田一耕助シリーズ

金田一耕助と言えば横溝正史推理小説の中に出てくる私立探偵。
今までに映画やTVドラマと何度も映像化されてきているけど、金田一と言えば、ボサボサ頭で着物に袴、大きなトランクを持ち、チューリップ帽ちっくなものを被っている、そんな風貌を思い浮かべる人が多いんだろうと思う。
かく言う私もその一人。

今までに多くの俳優さんが演じてきている金田一耕助だけど、私にとっての金田一と言えば、市川崑監督の映画での石坂浩二さんがデフォルト。
私が初めて金田一耕助というキャラクターを知ったのが市川崑監督の横溝正史シリーズだったから、そりゃデフォルトになるよね。My First金田一ですもん。

1976年に公開の第1作目の『犬神家の一族』、その後の第2作目の『悪魔の手毬唄』、第3作目『獄門島』、第4作目の『女王蜂』、そして最後の第5作目『病院坂の首縊りの家』と5作品は毎年公開されたから(2作目の『悪魔の手毬唄』と3作目の『獄門島』は同じ年に公開)1年に1回は石坂浩二さんの金田一耕助を目にしていたわけで、金田一と言えば石坂さんのあの姿がすぐに頭に思い浮かぶ。(笑)
因みに6作目として、第1作目の『犬神家の一族』をリメイクして2006年に公開されたものも、一応「市川崑監督×石坂浩二金田一シリーズ」になるわけだけど、第1作目の焼き直しという意識が強くて、私の中ではシリーズは5作で完結したと思っている。

もう今から46年も前の映画だけど。
えぇ、46年前は、私はまだ子供でしたよ。(笑)
子供だから、ストーリーとか、中途半端な理解というか、奥深さを知るにはまだ至らず、市川監督の作り出す映像に、ただただ引き寄せられてたって感じ。子供ながらに独特な色合いだと思ったんだけど、その後、市川崑監督は「色彩の魔術師」と言われてたって聞いて納得した。。
仄暗い色が醸し出す雰囲気は、昔の因習だったり情念だったりを彷彿とさせる一方、飛び散る血飛沫が怖いほど紅く鮮やかで、子供の目には衝撃的な色合いだった。
いや、大人になっても衝撃的な色に変わりはないか。(笑)

かつて子供の頃は民放でも、なんとかロードショーの時間帯で放送されることもあったんだけど、そのうち、めっきり放送もされなくなって、いつのまにか私も大人になっていき、「あぁ、市川崑監督の金田一? 昔の懐かしい映画だよねー」の一括りになりかけていた頃、衝撃的な再会を果たし、そこからリピート鑑賞作品の一つに昇格。

そう、忘れもしない。会社はお盆休みに突入し、朝から暑いとある夏の日。
エアコンをバリバリ効かせた部屋でゴロンと寝ころんで観ていたWOWOWで、それはいきなり始まったわけですよ。
金田一耕助シリーズ』と銘打って。

いや、大人になって観たら、吃驚。

「あれ? こんなに心にくる話だったっけ?」

登場人物もストーリーもちゃんと憶えていたし、確かに私の記憶通りの映画だったはずなのに、何なんだろ、これ……。ある場面からの台詞に心が締め付けられて、こんな切ない話だったっけ? と。

そこから、DVDを大人買いして、リピートする、する。
何か無性に観たくなる時があるんだよねー。(笑)

5作品ともどれも甲乙つけ難いんだけど、リピートする頻度が高いのは第2作目の『悪魔の手毬唄』と第4作目の『女王蜂』、そして第5作目『病院坂の首縊りの家』。

件のWOWOWで久しぶりにシリーズを観た時、子供の頃に観た時と大きく感じ方が違ったのが、まず第2作目の『悪魔の手毬唄』。
岸惠子さんが演じた「リカさん」の物語の終盤の台詞が大人になったら解るというか……。

夫を心底憎めたら、あんなことにはならなんだっ……。
惨い男と判っても好きやった……。
……忘れられませんのや……。

この台詞からの岸惠子さんに心打たれてしもて、もうたまらんかった。
でも岸惠子さんだけの芝居だけじゃなくて、そこに至るまでに積み重ねられた全てのものが、あの終盤に結実した感じがする。磯川警部のこと考えたら胸が苦しいよ……。

第4作目の『女王蜂』も、これも岸惠子さんなんだけど。いや、正確には岸惠子さんが演じた神尾先生の最後の手紙に……かな。勿論、この作品もその手紙に至るまでのすべての過程が積み重なってこそのものなんだけど。
演出も毛糸の玉って反則やん。もう胸が締め付けられる。

最後の第5作目の『病院坂の首縊りの家』は、佐久間良子さんに尽きる。
あの映画の時、佐久間良子さんは40歳になるかならないかだったみたいなんだけど、さすが東映の大女優さん。貫禄あるし、でも何よりもほんまにお美しい……。溜息が出るほどに。女性としての色気も半端ない。大人の女性ですよ、マジで。
(あの映画の時の佐久間良子さんの年齢が、今の私より年下であるというのが信じられない……)
この話も最後の最後に全てが結実するんだけど、ラストシーンで、佐久間良子さんを人力車に載せて坂を下っていく小林昭二さんの最後の顔がもうあかんのです。涙が出て仕方ない。そしてそれを坂の上から見ている金田一石坂浩二さん。このラストで「あぁ、最後の金田一なんだ」と感じてしまう。

市川崑監督のこのシリーズ、本当に脚本が凄い。一つ一つのピースが最後にちゃんとはまっていくのは勿論だけど、それをちゃんと映像で結実させていくのは、神の御業としか思えない。使われている音楽も、ちゃんとストーリーテラーの役目を担っているし。

大人になって、観れば観る程、切なくて胸が苦しいくなるんだけど、それでもやっぱり何度でも観たいと思う市川崑監督×石坂浩二金田一シリーズ5作品は、私の中では外せない作品。