徒然なるままに

日常のあれこれなど

『秒速5センチメートル』

2016年公開の『君の名は。』で、一躍、国民的アニメ監督として有名になった新海誠監督が、2007年に発表した秒速5センチメートル』~A chain of short stories about their distance~
短編3本の連作のオムニバス映画で時間は63分。見事、私の心をガシっと鷲掴みし『新海誠』と言う名を私の中に刻み付けた作品。

今から15年前、うん、私は勿論、大人の年齢だった。(笑) そして私にしては珍しく、作品公開からそう間を置かずに観たという珍しい作品。

3つの短編、第一話「桜花抄」、第二話が「コスモナウト」、そしてラストの第三話が「秒速5センチメートル」からなるこの物語は、それぞれが完全に独立した話ではなくて、主人公の「遠野貴樹(とうのたかき)」という男の子を中心とした物語。

『どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか』
これがこの作品のキャッチコピー。
そして作品のタイトルである『秒速5センチメートル』とは『桜の花びらが舞い落ちる速度』のことで、サブタイトルの『A chain of short stories about their distance』とは直訳すれば、『彼らの距離についての一連の短編小説』。

じゃ、どんな物語なのか?
そう問われたら、正直、私は答えに困ってしまうのよね~。
いや、誤解のないように書くと「あらすじ」なら、ちゃんと説明出来る、勿論。(笑)
ま、あらすじについては、私の拙い言葉よりも、公式ホームページとか予告編とかを観て貰った方がいい(笑)と思うので、まず下記に紹介。

秒速5センチメートル

小学校の卒業と同時に離ればなれになった遠野貴樹と篠原明里。二人だけの間に存在していた特別な想いをよそに、時だけが過ぎていった。そんなある日、大雪の降るなか、ついに貴樹は明里に会いに行く……。貴樹と明里の再会の日を描いた「桜花抄」、その後の貴樹を別の人物の視点から描いた「コスモナウト」、そして彼らの魂の彷徨(ほうこう)を切り取った表題作「秒速5センチメートル」。3本の連作アニメーション作品。

それと、この作品の第三話後半からラストにかけて山崎まさよしの『One more time One more chance』が流れるのだけど、これがね、最高なんだな。鳥肌が立つくらい。新海監督のこの演出に私は毎回ヤラれてしまう。この手法、判りきってるのに(笑)。いや、堂々と負けを認めますよ、見事に私、ハマってるよ、監督の仕掛けに。でもその見事にハマってる感じが、自分自身で心地よいのだから仕方ない。(笑) その心地よさを堪能できるYoutubeのSplit Screen MVを見つけたので併せて紹介しちゃいます。

ところで。
この『秒速5センチメートル』は後に、新海誠監督自身が書いた小説も発行されたらしいのね。映画を観た人たちの感想の中に、「ラストがひたすら悲しかった」とか「ショックで座席を立てなかった」とか、そういうのが多かったらしくて、その反省から第3話のラストを補完するかたちで書いた――とWikipediaには書かれてあった。

うん、確かに、これは哀しくて切ない物語なのかも知れない。
流れる映像は、淡い思春期の初恋を忘れられずにいる男の子=貴樹の話で、初恋の相手を今も何処かで探していて、社会人となって3年間付き合った彼女からは「1000回もメールのやりとりをして、たぶん心は1センチくらいしか近づけませんでした」とメールで別れを告げられ、なのに初恋の相手=明里は、貴樹ではない、違う男の人と結婚することになっていて。そしてトドメを刺すように、第三話の後半からかかる『One more time One more chance』の歌詞だよ? この解釈でいくならば物語はバッドエンドで、これじゃ、巷で言うところの『秒速病』という病にかかるのも解る気がする。(;^_^A アセアセ

私もそう聞かされたら、バッドエンドの切ない恋物語だと思わないわけではない。
いや、普通に考えればそうだよね、コレ!

でも、私が15年前にこの作品を観て最初に感じたのは、それとは少し違ってた。
生きていく中で生じる迷いも藻掻きも固執さえも、何一つ無駄ではないし、喪失だって嘆き悲しむものばかりじゃない。人っていうのは、そうやっていつも何かに迷い何かを失いながら、ともすれば自分が求めているものが何なのか、本当は自分自身でも曖昧で何一つ解ってなくて、なのに今此処には確かにない、きっとそれは此処ではない何処かにあるんじゃないかって、手を伸ばしながら生きていく、それが日常であり普遍なんだとエールをくれているように感じたの。

ま、そう感じられた一つの要因は、多分、私が物語の中の彼らよりも随分と歳を重ねていて、少なからず迷いも足掻きも喪失も一通りは経験していたからだろうと思う。
あ~、そういう時代あったよなぁ~的な。(笑)

そんな、私にとってはエールだと感じる物語を、新海監督はこれでもかという程に精緻で美しい風景描写に落とし込んでくるもんだから、私はギュッと心を鷲掴みされてしまうわけで。
しかも「子供の頃の幸せな時間、大切な記憶」は、人の心の中ではとても美しく彩られるという、記憶の作用までも忠実に再現しているところがニクいよ、ちくしょー!(笑)
まさに心象風景で繋ぎ合わされた物語だと感嘆してしまうのよね~、いつも観る度に。

だから、この物語のテーマは何か? なんて考察みたいな難しいことは二の次。(笑)
ただただ、その独特の映像美とエモーショナルな演出が私には堪らない!
当然、これも私のリピート鑑賞作品の一つ。(笑)